4日連続で上野に通い、ロイヤルの『マノン』を鑑賞。
濃厚な演技が主体の悲劇なので、見る前は「精神的にかなり疲れそう〜」なんて思ってたんだけど、終わってみたら「もっともっと見たーい」という気持ちになった。
初日はギエム/ムッル。
思いの外可愛らしいギエム、そのテクニックと身体能力はやはり驚異。視線の使い方がとても上手く、その時その時の感情がとてもわかりやすい。
ムッルは感情を内に秘めながらも、要所要所でそれが発露される。ただサポートに気を使いすぎて、表情が乏しかったのが気になった。
2日目はバッセル/ボッレ。
マクミラン直伝だけあって、とても明晰なマノン像をつくりだしたバッセル。特に2幕は絶品。気品と可愛らしさ、そして大人の色気を併せ持っていて、完成された踊り・表現だった。
ボッレは...うーむ、私は彼がどうやら苦手らしい。がっしりとした大柄な体、彫りの深い顔立ちと、ギリシャ彫刻のような風貌で美しいんだけど、特に心に響くものがない。この日の彼はかなりいい状態だったと思うし頑張っていたとは思うんだけど、やはり受け付けないものはしょうがない。そのためマノンとデ・グリューの間の愛情・葛藤もいまいち掴めなかった。
まあ、好みの問題だから仕方ないか。
3日目はコジョカル/コボー。
実は一番期待していなかった。コジョカルはとっても好きなバレリーナなのだが、その可愛らしい風貌から「ジュリエットはいいと思うけどマノンはどうかなぁ」と思っていたし。
だけどそんな不安は幕が開いたら吹き飛んでしまった。2幕での大人の色気や「魔性の女」的要素は薄かったけど、天性の「無垢な少女性」からくる魅力と、3幕での「完全な抜け殻」な姿に心を動かされた。あと5年くらいして、色気の使い方を身に付けたらものすごいマノンを見せてくれるかも。そんな期待を持たせてくれる出来でした。
そしてコボー。コジョカルとはずっと組んでいることもあって素晴らしいパートナーシップ。でも感動したのはそこではなくて、彼の演技力。デ・グリューの感情の動き・うねりが全て観客に伝わってくる大胆で繊細な表現。踊りをキレイに踊ることよりも、感情を伝えることを最優先にした踊りで、見ているだけで目が潤んでしまいました。いや、こんなに演技派だとは思わなかったです。
最終日はロホ/テューズリー。
ロホは前回のバレエフェスで見せてくれたようにテクニックがホントに素晴らしい。しかしそれ以上に彼女は「女優」として素晴らしいことを今回の舞台で見せてくれた。まず何より、全身からにじみ出る色香が「魔性の女」「ファム・ファタル」を表していて素晴らしい。しかも1幕では自身の魅力に無自覚なマノン像で、2幕ではその魅力を意識的に振りまくマノン像、その使い分けがまた上手い。ただ、3幕ではその色香が生命力にも感じられて、「沼地のパ・ド・ドゥ」での死が唐突に感じられた(ちなみにギエムの場合はあまりに力強すぎて唐突に感じた。バッセルとコジョカルは徐々に力尽きていく感じが出ていた)。
テューズリーはコープが病気で降板になったため急遽代役出演(たまたま来週の小林紀子バレエシアターの公演に出るために来日していた)。ロイヤル出身だし、以前新国立劇場でデ・グリューを踊っている経験も買われてのことだと思う(NBSは新国を敵視しているため当日配られたプロフィールにはそのことは記載していない)。新国で踊ったときは初役だったこともあり少々硬かったが、今回は伸びやかに踊っていた。調子も良かったように感じた。感情表現も激しくストレートに出していて好印象。体当たりでデ・グリューという役を演じていた。合わせる時間があまりなかったためか、ロホとのパートナーシップでは少々慎重になっていたところもあったがそれは仕方なしか。
主役以外では、3日目にレスコーを踊ったサモドゥーロフ。存在感、演技力、踊り、全てが高水準で舞台を盛り上げた。他の日のレスコーとは正直なところ格が違った(実際違うんだけど)。レスコーはこのくらいのダンサーでないと、この『マノン』という作品はホントの意味で盛り上がらないと思う。
4日目のホセ・マルティンも悪人面で雰囲気は出ていたけど、「妹への愛情」が薄かったな。1日目のディアゴ・ソアレスは雰囲気はいいんだけど踊りが不安定。2日目のリカルド・セルヴェラは童顔すぎてとてもマノン(バッセル)の兄には見えない。弟なら納得だったけどね。
ムッシューG.M.役は3人見たけど、個人的にはバッセルの日のクリストファー・サンダースが一番だと思った。いやらしさ、女性の脚へのフェティシズム(物語の時代を考えれば脚フェチは究極のエロ)、そして冷酷さのバランスがとれていた。彼に比べるとアンソニー・ダウエルは威厳がありすぎたし(貴族的すぎた)、ウィリアム・タケットは脚フェチ度が低かった(いやらしさは、、冷酷さは十分だったけど)。順番を付けるとすればサンダース>タケット>ダウエル。自分でもちょっと以外なランキングになりました。
レスコーの愛人役は3日目のサラ・ラムが良かった。あと最終日のマーラ・ガレアッツィも良かった。物語の本筋には絡まないけど、ソロで踊る場面は多いし演技力も必要とされる役なので、存在感が感じられないと舞台が締まらないんだよね。
乞食のかしらは断然に2日目のブライアン・マロニー。踊りの質が違いました。
マダムはエリザベス・マクゴリアン。威厳と品と打算がほどよく調和されていて大きな存在感。ジェネシア・ロサートは高級娼婦を仕切るマダムというよりは、普通の宿屋のおかみさんみたい。人が良すぎる感じがした。
看守はウィリアム・タケットとジャコモ・チリアーチを見たけど、前者の非人間的な冷酷さが素晴らしかった。後者はもっと世俗的で、自分の欲望をストレートに出していた。いい感じではあったけど普通の悪党と言う感じ。
あと紳士役で出ていたエドワード・ワトソン。先日プリンシパルに昇っただけあって、ホントに美しい踊りだった。何人かで踊っていても彼に目が吸い寄せられる。彼の主役を見てみたい気持ちになりました。
そんなこんなで、総じて満足できた『マノン』公演。
満足度では3日目>4日目=2日目>1日目。これまた当初の予想からすると意外な感じ。3日目(コジョカル/コボー/サモドゥーロフ)は、舞台全体のバランスがホントに良かった。誰が突出するでもなく、全員で一つの物語を作っていた印象。全幕ものはそういうのが好みみたい。
ま、見た人によって印象はそれぞれ違うと思うけど、とりあえず自分の印象は上記のような感じ。いろいろ掲示板とか感想日記とかを探して見てみてるけど、いろんな感じ方があって面白い。それがまた舞台の魅力なんだよね。
濃密なロイヤル祭が終わったので、ちょっと気が抜けてしまいました(笑)。来週はABT(アメリカン・バレエ・シアター)公演があるけど、なんかもうどうでもいい気分(^^;
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